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大分地方裁判所 昭和23年(行モ)1号 決定

原告

唯有戒心

被告

大分縣農地委員会

被告

伊美村農地委員会

主文

申請人の申請を却下する。

事実及理由

申請人は、別紙目録記載の農地に対する被申請人等の賣渡計画の執行を停止するとの決定を求め、其の事由として申述した要旨は、被申請人伊美村農地委員会が昭和二十二年五月一日別紙目録記載の農地に対し、爲した買收決定に対し土地所有者である。

申請人が爲した異議申立が却下せられ、次いで爲した申請人の訴願も被申請人、大分縣農地委員会の裁決で却下せられたので、申請人は右裁決を不法として、同年十一月七日大分地方裁別所に、同年(ワ)第二〇〇号行政処分取消請求の訴を提起し、目下準備手続中であるが、買收手続は既に完了し、更に賣渡手続に移らんとしている状態であるけれども、右農地は申請人の耕作地であり、別紙耕作関係者欄記載の通り現に申請人と山田関治外二名と共同耕作中であるから、被申請人等が、右農地の賣渡を完了し、譲受人がその登記を済ませると仮定すると、後日申請人が勝訴の判決を受けた場合に、回復すべからざる損害を惹起する虞がある、尚その上、本件の執行停止がなされても、公共の福祉に重大な影響を及ぼす虞もないというにある。よつて審査するに行政事件訴訟特例法第十條第一項には、違法な行政処分の取消又は変更の訴の提起があつても、その処分の執行停止の効力を有しないとの原則を規定し、ただ同條第二項の要件を具へる場合即ち行政処分の執行により生ずべき償うことの出來ない、損害を避ける爲、緊急の必要の存する場合で而も執行を停止することにより、公共の福祉に重大な影響を及ぼす虞のない場合に限つて、裁判所はその執行停止を命ずることが出來ることになつている、ところが本件は、農地の賣渡計画の執行停止の申請であつて見れば、たとへ農地賣渡が遂行されたとしても、土地は家屋と性質を異にし、その性質上家屋の取毀等の如く、之が爲に直ちに滅失して、後日申請人にとつて回復することの出來ない、損害を加へる虞はなく、又仮令農地変動の登記がなされたとしても、之れまた後日、申請人に勝訴の判決があれば、その判決はすべての関係官廳を拘束する、結果原状回復も容易であり、又その間申請人が耕作出來なかつた爲、損害を蒙るとしてもその損害は、結局金銭で償うことの出來る損害と謂うべきものであるから、本件申請は前記法律第十條第二項に定める要件即ち、申請人に償うことの出來ない損害の生ずる虞のあることが認められない、從つて此の点に於て既に申請人の本件申請を許すことが出來ないと認めるから、爾余の要件についての判断を省略し本件申請を却下したのである。

(目録 省略)

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